G20エネルギー・環境大臣会合 意義と評価の視点

令和元年(2019年)、日本は、初のG20議長国を務める。主として環境政策とエネルギー政策を扱うことになる「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」は、6月15日と16日にかけて、長野県軽井沢町で開催される。議長国としてのリーダーシップと調整力を遺憾なく発揮し、実効性のある宣言やコミュニケ等をまとめあげられることを期待したい。

G20メンバー国の国際社会における影響力は極めて大きい。世界のGDPの約86%(2017)、GHG排出量の約77%(2015)、エネルギー消費量の約78%(2017)、人口の約63%(2017)を占めるこの集団が、一致団結してことに当たれば大きな成果が得られるように考えられる。他方で、改めていうまでもなく、G20の関係国はG7等とは異なり、資本主義から共産主義、王政の形態をとる国など政治制度や経済・社会制度が多様で、経済状況や抱える環境問題なども様々である。このことは、各国の有する問題意識や各課題の国内政策におけるプライオリティーに差異を生じさせている。そうした国々が、自国を超えた視野で問題意識を持ち、世界的な課題について認識を共にすることに大きな意義がある。
G20は、トロイカと呼ばれる3カ国が、議長国としての経験を継承し、これまでの政策の一貫性を確保しながら運営されている。すなわち2018年の議長国アルゼンチン、2019年議長国の日本、そして2020年議長国のサウジアラビアが一枚岩となって、G20諸国のとるべき諸対策を牽引することが期待されている。なお、この点について、個人的には、2020年における成果の一貫性、とくに産油国サウジアラビアの挙動に関心をもっている。脱炭素社会に向けて大きく舵を切る転轍手としての役割が期待されるが、どのようにこの課題にあたるのか興味深いと感じている。

環境問題については、例えば、パリ議定書からの脱退表明など気候変動問題とりわけ緩和策に関する米国の消極的な姿勢なども伝えられる中で、G20の総意としてどれだけまとめ上げられるかが重要となろう。おそらく今回もコミュニケといった形で議論の結果や共通認識となった今後の対応の方向性が示されるものと考えられるが、ある特定の国やグループが、課題について別の認識を示し、別の道を歩むように決着していないか、は評価ポイントの一つとなろう。例えば、5月に開催されたフランス・メッツサミットにおいては、パリ協定の受け止め方、実施方針について、G6+1という構図になっているようにも見受けられる。もとより、この問題は国家の主権、自主性、自発性の尊重と、G20としての宣言、行動計画などにどこまでの拘束性を持たせるかのという極めて難しい側面を有する。各国のリーダー達が、極端な自国優先主義に陥ることなく、この難しいバランスをうまくとったところで成果をあげてほしいと考える。

他方で、G20における各種の難しい調整の過程で、宣言などがあまり意味のないものになるようでは、本末転倒でもある。今後の実効性という面で、具体的な対策の方向や枠組、あるいは、仕掛けが直接、間接に示されたものとなっているかが、確認すべき次のポイントとなろう。

その上で、日本らしさのある政策や構想が取り入れられ、国際社会における認知度が一定程度向上すれば、議長国としての役割を果たしたものと評価したい。こうした政策の例としては、例えば環境省では、第5次環境基本計画などにおいて、目指すべき社会像として「地域循環共生圏」を掲げている。環境省では、その創造に向けて、専門家や情報を集約したプラットフォームの構築を通じた地域構想や計画の策定支援や地域社会インフラの脱炭素化モデル実証などを進めていくとしていると聞いている。昨今circular economyという言葉を国際的な会合の場でよく耳にするが、「地域循環共生圏」は、地域資源を持続可能な形で最大限に活用し、各地域が自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて相互に補完し、支えあうことにより、持続可能な社会を形成しようとするものであり、このcircular economyの概念を内包し、経済、社会、環境の三側面をバランスよく統合された形で達成するものである。この意味で、日本には一日以上の長があると考えている。循環型社会を総合的に進める枠組みとしても、わが国では環境省の主導により平成12年(2000年)に循環型社会形成推進基本法(法律第百十号)が策定されている。すでに循環型社会という言葉も特に違和感なく受け入れられており、様々なリサイクル制度も充実し、市民社会における実践についても一定程度進んでいる。また日本発のイニシアティブとして3R(reduce, reuse, recycle)も様々な場で目にし、これに着想を得たように思われる○○Rという施策も国際社会で散見されるようになった。昨今、国際社会の耳目を集める海洋プラスチック廃棄物の問題についても、このところ日本では、プラスチック資源循環戦略の策定や海岸漂着物処理推進法に基づく基本方針の改定、幅広い主体の連携による「プラスチック・スマート」キャンペーンなど積極的に手が打たれている。四方を海に囲まれた我が国から途上国支援にもつながるような貢献策が示されるようなら、好意的に受け止められるものと考えられる。気候変動については、4年連続で温室効果ガス排出量を削減した経験・実績を発信する好機であるし、適応の問題については、情報基盤の整備と、それらの科学的情報を生かした具体的な適応取組の実現のための人材育成など、日本ならではの貢献に寄せられる期待も少なくないと考える。

こうした日本発の環境政策が、示唆に富むものとして関係国の関心を集め、それぞれの国における独自の事情を反映しつつも、新たな展開を図っていくことにつながれば、議長国としての面目躍如といえるのではないか。さらに言えば、このG20会合には、G20メンバー国だけでなく、招待国や相当数の国際機関からも参加があり国際的な議論に大変大きな影響力がある。重要な課題について、国際的な認識が広く、深いものとなり、また対策に弾みがつくことを、G20エネルギー・環境大臣会合に期待したい。

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