世界の運命は人類の手に 著名な科学者によるグローバル気候マーチへの賛同表明 (IGES仮訳)

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私たちは現在、地球の生命維持システムの行方を間違いなく左右するであろう社会・環境システムの二つのティッピング・ポイント(転換点)に近づきつつある。そのような中、世界中の若者たちが迅速かつ協調的な気候行動に向けて立ち上がっている。アントニオ・グテーレス国連事務総長が気候変動対策の「頂点を目指す競争」である気候行動サミット(ニューヨーク)に各国首脳を招請する直前の9月20日、若者たちによるグローバル気候マーチが行われる。彼らの求める持続可能性に向けた社会の転換がすぐにでも実現しなければ、地球上の生命の安定を脅かす地球システムにおける複数のティッピング・ポイントを超えてしまうおそれがある。

人間の活動の圧力により地球システムの構成要素が危機的なティッピング・ポイントに一層近づいていることが次第に明らかになっている。その結果、地球の気候状態を激変させる非線形プロセスが次々と引き起こされる可能性がある。熱帯のサンゴ礁システムや北極海の夏季の海氷は、1.5°Cの温暖化ですでにリスクにさらされる。また、グリーンランドの氷床は、2°Cの上昇が不安定化のティッピング・ポイントであると考えられている。i 西南極氷床崩壊のティッピング・ポイントをすでにある程度超えている可能性も排除できず、その場合、地球全体で長期にわたる3メートルの海面上昇が不可逆的に起こると予測される。ii 北極圏では温暖化のペースが最も速いため、北半球でジェット気流が減速し、大きな蛇行パターンを描く傾向にある。iii その結果、高・低気圧が停滞して大雨や熱波が続くと、それがさらに洪水や干ばつを引き起こし、人々の生活や食料システム、健康、安全が脅かされる。iv一般的に、気候変動による異常気象の頻度・程度が高まると人々の対応能力が低下するが、これは特に貧しい国・地域に住む人々の脅威となる。正確なティッピング・ポイントはまだ分かっていないが、温暖化が1.5°Cを超えると、レッドライン(超えてはならない一線)に危険なまでに近づくか、それを超えると考えられている。i 温暖化を2°Cではなく1.5°Cに抑えれば、数億人をさまざまな気候関連リスクから守ることが可能であろう。v 一方、温室効果ガスの排出量が減少しなければ、「ホットハウス・アース(温室化した地球)」への経路をたどることになり、もはや人類による制御不能となって、ティッピング・ポイントを次々と超えて壊滅的な4~5°Cの気温上昇がもたらされるおそれがある。vi 人類は、過去1万年にわたり享受してきた穏やかな気候を当たり前のことと思っているが、現在の地球の平均気温は、最後の氷河期以降、すでに最も高くなっている。vii

これまで明らかになった科学的根拠に基づき、様々な国・自治体及び世界中の数千もの大学が気候非常事態を宣言している。私たち科学者はこの問題の当事者として、これらの宣言を「危機を煽っている」と言うのは完全に見当違いであることを強調したい。それどころか、専門家の評価は通常控えめであるため、こうした評価により意思決定者が気候影響のリスクを(過大評価ではなく)過小評価してきたという見解が広まっている。実際、予想よりも早く深刻な気候影響が起きていることは明らかである。viii 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2001年以降の報告書で毎回、いわゆる「懸念材料(RFC)」の評価を上方修正し、懸念レベルを引き上げている。例えば2001年の報告書では、固有かつ絶滅のおそれがあるシステム(サンゴ礁や先住民コミュニティ等)のリスクは3°C以上の温暖化で「高く」なるとされていたが、現在では、2°C以下の温暖化でも不可逆的崩壊のリスクが「非常に高く」なるとされている。科学の進歩に伴って、グリーンランドの氷床が完全に融解し海面が7メートル上昇するといったいわゆる「大規模不連続事象」(破壊的シフト等)が起こる可能性も、2001年の低リスク(温暖化が4°Cを上回った場合のみリスクが発生)から、2019年には中程度~高リスク(2~3°Cの温暖化でリスクが発生)に引き上げられている。その間も地球の平均気温は上昇し続け、温室効果ガス排出量は2018年に過去最大となった。ix 現状では、控えめに評価しても、今世紀末には温暖化が3°C以上進む(明らかに不可逆的なティッピング・ポイント)と予測されている。地球がこれほどの温暖化を経験するのは400万~500万年ぶりのことなのである。x

世界中の若者たちは、9月20日のグローバル気候マーチへの参加を大人にも広く呼びかけている。私たち科学者も、「ひとつの世代の問題ではない」という彼らの主張に賛同する。地球の運命を握っているのは人類である。子どもたちの世代に気候リスクだらけの不安定な未来を残さないよう政治やビジネスを動かすには皆が力を合わせなければならず、またそれが地球システムの危険なティッピング・エレメント(地球環境の激変をもたらす事象)への最大の抵抗となる。2019年を持続可能な世界へと完全に舵を切る年にすべく、皆さんの賛同によってこの機運がさらに高まることを期待する。

Tanya Abrahamse 地球規模生物多様性情報機構(GBIF)/デンマーク
Ottmar Edenhofer ポツダム気候影響研究所(PIK)/ドイツ
Peng Gong 清華大学地球系統科学系/中国
Daniela Jacob Climate Service Center Germany(GERICS)
Tim Lenton エクセター大学グローバルシステム研究所ディレクター/英国
Wolfgang Lucht ポツダム気候影響研究所(PIK)/ドイツ
María Máñez Costa Climate Service Center Germany(GERICS)
Mario J. Molina マリオモリ―ナセンター/メキシコ
Nebojsa Nakicenovic 国際応用システム分析研究所(IIASA)/オーストリア
Carlos Nobre ブラジル国立宇宙研究所(INPE)/ブラジル
Veerabhadran Ramanathan スクリプス海洋研究所/米国
Johan Rockström ポツダム気候影響研究所(PIK)/ドイツ
Hans Joachim Schellnhuber ポツダム気候影響研究所(PIK)/ドイツ
Peter Schlosser アリゾナ州立大学/米国
Youba Sokona The South Center/スイス
Leena Srivastava TERI大学/インド
Lord Nicholas Stern インペリアルカレッジロンドン グランサム気候変動・環境研究所/英国
武内 和彦 公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
Laurence Tubiana 欧州気候基金(ECF)
Carolina Vera 海洋・大気研究センター CIMA-UMI/IFAEC/アルゼンチン

i. Intergovernmental Panel on Climate Change (2018) Special Report— Global Warming of 1.5 °C.
ii. Holland et al. (2019) West Antarctic ice loss influenced by internal climate variability and anthropogenic forcing. Nature Geoscience 12 (9), 718-724.
iii. Petoukhov et al. (2013) Quasiresonant amplification of planetary waves and recent Northern Hemisphere weather extremes. Proceedings of the National Academy of Sciences 110 (14), 5336-5341.
iv. Kai Kornhuber et al. (2019) Environ. Res. Lett. 14 054002.
v. Dan Tong et al. (2019) Committed Emissions from Existing Energy Infrastructure Jeopardize 1.5 °C Climate Target, Nature, July 1, no. 1.
vi. Will Steffen et al. (2018) Trajectories of the Earth System in the Anthropocene, Proceedings of the National Academy of Sciences 115, no. 33:8252–59.
vii. Marsicek et al. (2018) Reconciling divergent trends and millennial variations in Holocene temperatures. Nature 554, 92.
viii. Spratt, D. and I. Dunlop (2018) What Lies Beneath: The Understatement Of Existential Climate Risk. Melbourne, Australia, Published by Breakthrough - National Centre for Climate Restoration.
ix. Global Carbon Project (2018) Carbon budget and trends 2018. [www.globalcarbonproject.org/carbonbudget] published on 5 December 2018.
x. Burke et al. (2018) Pliocene and Eocene provide best analogs for near-future climates. Proceedings of the National Academy of Sciences 115 (52), 13288-13293.

Author:
Earth League
Date: