気候変動への適応:アジアの開発へ向けた重要課題

In What's New From IGES (IGES newsletter)
Volume (Issue): Nov. 2005
Non Peer-reviewed Article

気候変動への適応:アジアの開発へ向けた重要課題
気候政策プロジェクト上席研究員 アンチャ・スリニヴァサン
2005年11月

最近、インド洋の津波や米国を襲ったハリケーン「カトリーナ」、ベトナム北部を襲った熱帯性暴風雨「ダムレイ」など、大きな自然災害が世界各地で甚大な人的被害や都市基盤の損壊をもたらしたことがマスメディアで大きく取り上げられた。こうした自然災害はすべてが気候変動に起因するわけではないとされているが、「気候変動に関する政府間パネル第三次評価報告書(TAR)」によると、今後は気候変動が原因で異常気象の頻度や強度が増す恐れがあるといわれている。残念なことに、これまで全世界の気候変動に関連する災害の九割はアジア太平洋地域で起きており、1970年代以来、50万人以上の人命が失われている。

適応問題を開発計画の主軸へ
気候変動への適応は、生態学的・社会的・経済的システムに係る政策措置を実施することにより、実際にまたは予想される気候上の刺激による影響に対して調節を行う、動的かつ多面的なプロセスである。アジア太平洋地域は、貧困にあえぐ人口が多いために適応能力が乏しいとされ、また技術や資源、制度的な制約があり、そのために気候変動に対して極めて脆弱であるというこの地域の特性から、気候変動への適応が緊急の課題になっている。各地の地域社会や生態系はある程度の適応を続けているものの、その適応策は不十分な上に、その実施には困難を伴い、高コストで不的確なことが多い。気候変動によりこれまでの数十年にわたる開発や貧困削減努力が無駄になる恐れが生じている中、アジアの政策担当者にとって大切なことは、受け身に回った「盲目的な」適応から、適応問題を地方・国家・国際レベルでの開発計画の主軸に据えることにより、積極的かつ慎重な体系的戦略へと転換することである。

国際交渉の場では、主に人間活動に起因する気候変動と自然現象としての気候変動の影響を区別できるだけの知見が得られていないことから、適応問題は、温室効果ガスの排出削減ほどの関心を集めることはなかった。しかし、たとえ排出緩和措置が整備されたとしても、ある程度の適応策が必要となる以上、COP8以降、気候変動への適応を推進するための仕組みを作るべきであると開発途上諸国は主張している。気候変動特別基金(SCCF)、最後発開発途上国基金(LDCF)、適応基金、地球環境ファシリティ適応特別優先などの資金メカニズムは設けられたが、これらに対する拠出には一貫性がなく不十分であったといえる。2004年12月のCOP10では、「適応策と対応措置に関するブエノスアイレス作業計画」が採択され、影響と脆弱性、適応策に関する5ヵ年作業計画の策定を科学及び技術の助言に関する補助機関会合(SBSTA)に委託することが決定され、これにより国際的な議論の場での適応問題に関する認知度が高まった。これらの議論はモントリオールで開かれるCOP11に引き継がれる。

世界銀行などの多国間金融機関やJICAなどの二国間協力機関は、それぞれの計画に適応問題を盛り込む作業を始めた。しかしながら、実務レベルとなると、インフラ整備のための「気候変動耐性」を備えた大型プロジェクトの実施に関して課題は多い。「気候変動耐性」のあるインフラは、気候変動の影響を考慮せずに建設したインフラの場合に比べ、資本コストが割高になるのは明らかであるが、一定の期間(15年から20年)にわたって算出してみれば、補修費用を含めた累積コストはずっと安くなるはずである。したがって、計画の初期段階でプロジェクトの「気候変動耐性化」を行えば、資源を大幅に節約できると考えられる。

適応の必要性に対する認識は広まっているものの、主として気候変動に対する脆弱性や地域社会の適応能力について信頼できる適正な情報が現時点ではないため、アジア諸国は国家レベルでの努力をあまり行っていない。また、有効な適応策を開発計画の主軸にしていない理由のひとつとしては、アジア各国における政策論争で意見が大きく食い違うためである。たとえば、気候変動は農業や水資源などの部門に大きな影響を及ぼすとされているが、こうした多岐にわたる部門をカバーする課題に対する政策論争は、部門ごとに別々に進められており、一貫性がない。しかし、バングラデシュやキリバスなどの国々では進展が見られ、政策レベルにおける適応問題の開発戦略における主流化がある程度進められている。とはいえ、実務レベルとなると、気候変動の影響を受けやすい各部門で課題が山積しているという状態には変わりない。


IGESが「積極的なミクロレベルでの適応策(PMA)に関するミーティング」を開催
適応には、様々な地域的利益など、地域特有の配慮が必要であり、そのため、適応計画においては地域社会の積極的な参画が不可欠となる。したがって、地域社会や企業、政府、その他地域レベルの利害関係者による先見的戦略措置を含む「積極的なミクロレベルでの適応策(PMA)」が、気候変動に対する適応戦略の重要な部分を占める可能性が大きいと思われる。IGESは2005年7月13日〜14日に、PMAに関するミーティングを東京で開催した。このミーティングでは、諸地域の適応に関する具体的事例を取り上げ、国際気候交渉及び持続可能な開発において持つ意味合いを検討し、地域社会の適応性を高め、貧困を削減するには、地域計画にPMAを組み込むことが重要との結論に達した。また、実務者レベルと地域社会との双方向の対話を通じた「共同学習によるパートナーシップ」を、地域レベルでの適応問題の主流化を図る上での基盤とするべきであるという提案がなされた。ミーティングの参加者は、政治家や高官レベルの政策決定者に迅速なPMA措置の実施を促すインセンティブや方策の創出、そしてPMAの推進に向けたさらなる国際支援の必要性を強調した。

(ニュースレター「What's New from IGES?」2005年11月号より)

Remarks:

English version:
http://pub.iges.or.jp/modules/envirolib/view.php?docid=167

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