増加する石炭火力発電所が日本の中長期削減目標に与える影響

IGES Working Paper No.WP1503
Discussion Paper

<要旨>
本稿では、現在公表されている18 GWにおよぶ石炭火力発電の新規建設及び更新(以下、設備追加)計画が日本の温暖化対策に関する中期目標(2030年目標)及び長期目標(2050年目標)に与える影響について分析した。加えて、これらの目標の達成に向けて電力業界全体の実効性のある取組が講じられた際の、石炭火力発電設備に対する経済的リスクについて考察した。

中期目標(2030年目標)の国際的評価と石炭火力発電の設備追加計画が与える影響

2015年4月30日に、日本政府は「2030年度に2013年度比26%削減(2005年度比25.4%削減)」とする約束草案要綱を発表し、長期エネルギー需給見通し骨子を了承した。本骨子では、「2030年の時点での電源構成として原子力発電を20~22%、再生可能エネルギーを22%~24%、石炭火力発電を26%」と明記され、これが実現すると、電力部門の排出原単位が2030年において0.36 tCO2/MWhになると算定される。これは、2030年時点での米国の排出係数0.34~0.38 tCO2/MWhと同程度であるが、欧州連合(EU)の0.18 tCO2/MWhよりも高いものとなる。米国、欧州は石炭火力発電の利用割合を低下させることで排出原単位を急速に改善し、2030年時点での排出原単位は、両国・地域の2℃目標達成シナリオの範囲内に収まる。一方で、日本の石炭など火力発電への依存度はさほど変わらず、排出原単位の改善の程度は比較的低く、2℃目標達成シナリオの範囲を上回る。その結果、2030年電源構成案を基盤とする約束草案要綱に対する国際的評価が低くなる可能性がある。
2030年電源構成案では、2030年における石炭火力発電による発電量は、276 TWh、CO2排出量は、2.4億tCO2と算定される。一方で、現在公表されている18 GWに及ぶ石炭火力発電の設備追加計画が実行されると、2030年時点における石炭火力発電からの全電力供給量は338 TWhとなり、全電力による供給量の32%となり目標とする割合の26%を超過する。また、CO2排出量は2.91億tCO2と算定され、目標の2.4億tCO2を上回る。さらに、上記の2030年電源構成案が想定する排出原単位0.36 tCO2/MWhよりも悪化する可能性がある。
従って、石炭火力発電の設備追加計画を改定することが第一に求められるが、仮に設備計画の改定がなされない場合においても「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議とりまとめ(2013年4月25日、経済産業省・環境省)」にあるように、削減目標と整合性をもって電力業界全体が全体として実効性のある取組を講じることが今後求められる。2030年電源構成案が想定する石炭火力発電所からのCO2排出量超過分を、環境保全措置としてオフセットを行う場合、クレジット価格を2,000円/tCO2と仮定すると、960億円/年の購入費用が必要になる。また、石炭火力発電の追加設備によるCO2排出量と天然ガス火力発電によるCO2排出量の差分に対して、オフセットを行う場合、クレジット価格を2,000円/tCO2と仮定すると、1,100億円/年の購入費用が必要になる。
上記の電力業界全体の枠組みにおいて、石炭火力発電によるCO2排出量超過分に係わる費用を電力業界全体で負担する場合、これらの費用は電力価格に一律に上乗せされ、国民の負担になる。国民が負担する海外クレジットの前例として、京都メカニズムクレジット取得事業において日本政府が9,749万トン取得のために8年間で要した約1,600億円、また2016年以降の地球温暖化対策税の1年当たりの税収2,623億円と比較すれば、国民が海外クレジットに支払う費用負担は小さくないことが分かる。一方で、2016年以降に電力小売市場が全面自由化し、国民が電力を選択できるようになると、当該費用は石炭火力発電に限定して上乗せされ得るものの、クレジット価格が2,000円/tCO2程度の場合は依然として石炭火力発電所の経済優位性が高い。なお、国民または発電事業者の負担となる海外クレジットの購入費用は海外に移転されるが、発電事業者の負担となる炭素税支払い費用は国内に還元されるという相違がある。また、石炭火力発電の長期にわたる運用は、海外のクレジット価格の上昇、国内における炭素価格の上昇、自由化された電力市場における国民の低炭素電源の選択など経済性に影響を与える様々なリスクが常時付随することから、石炭火力発電の設備追加計画を改定し、石炭火力発電に纏わる経済的リスクや社会的リスクをいち早く回避することは重要な選択肢のひとつである。

長期目標(2050年目標)に対する石炭火力発電の設備追加計画が与える影響

第4次環境基本計画(2012年4月27日閣議決定)が定める「2050年80%削減」を達成するには2050年時点での温室効果ガス排出量を2.47~2.7億 tCO2まで低下させる必要がある。これに対し、2050年における石炭火力発電の設備追加分からのCO2排出量が0.98億 tCO2(2050年目標におけるGHG排出総量上限のおよそ44%)、既存設備を含むすべての石炭火力発電所全体からの排出量が1.10億 tCO2(2050年目標におけるGHG排出総量上限の約41%-45%)と推定され、上記の2050年目標達成を困難にする。また、石炭火力発電の設備追加計画が実行された場合の発電量を算定した結果、2℃目標達成シナリオが想定する発電量を大きく逸脱することが明らかとなった。従って、長期的にCO2排出量を高止まりさせる“ロックイン効果”を生みだす。
2050年目標達成に関連して、2030年時点での既存の石炭火力発電所に設備追加分を加えた全体のCO2排出量について、2℃目標達成シナリオにおける石炭火力発電所からの排出量との差分をオフセットするために必要なクレジット調達費用を算定した。その結果、年間約1億300万トン/年~2億7,700万トン/年のクレジットが必要となり、クレジット価格を2,000円/tCO2と仮定すると、その費用は2,070~5,530億円/年となった。
また、国際社会が炭素税や排出量取引の導入等によって炭素価格付けに関する取組を推進する中で、日本においても2030年時点で炭素価格が国際的な標準価格と想定される4,000円/tCO2となる場合、合計1兆1,640億円/年の費用負担が発電事業者に対して発生し、これらの費用は発電事業者に対して課される。従って、石炭火力発電の他の電源に対する経済優位性に影響するが、炭素価格が4,000円/tCO2では、天然ガス火力発電や風力、太陽光など主要な再生可能エネルギーに対して経済的優位である。しかし、仮に炭素価格が6,000円/tCO2を上回ると、天然ガス火力発電や風力、太陽光など主要な再生可能エネルギーと比較して経済優位性が低下し得る。加えて、上記のように様々な社会的リスクが付随する。

中長期目標の達成に向けて

今後、日本の中長期目標、2℃目標達成シナリオの達成に向けて、電力原単位を下げるために、石炭火力発電の設備追加計画の改訂はもとより、再生可能エネルギー、原子力発電、CO2回収・貯留(CCS)、海外におけるGHG削減の利用の在り方について真摯に議論するとともに、電力需要量の削減を含めて、電力部門への負荷、特に火力発電所の負荷を減らすような電力業界全体の枠組み施策を早急に講じることが求められる。

Remarks:

2015年11月26日更新 計画中の石炭火力発電所の設備容量を18GWに更新致しました。
2015年10月14日図3のレイアウトを更新いたしました。
2015年5月29日更新
2015年5月26日公開

Date: